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福岡地方裁判所 昭和44年(行ウ)37号 判決 1972年11月24日

福岡市中央区赤坂二丁目二番一九号

原告

徳重棟雄

右訴訟代理人弁護士

古原進

諫山博

福岡市中央区天神四丁目一番三七号

被告

福岡税務署長小田光男

右指定代理人

小沢義彦

安武嘉三次

大神哲成

烏谷吾郎

山本秀雄

井口哲五郎

伊東次男

主文

被告が昭和四三年一月三一日付でなした原告の昭和四〇年度の所得税更正決定並びに過少申告加算税の賦課決定(福岡国税局長が昭和四四年六月一二日になした裁決処分((福局協(審)第一二六号))で取消された部分を除く)のうち、総所得金額につき一一四万二、四六四円を超える部分、所得税額につき総所得金額を一一四万二、四六四円として算定した税額を超える部分並びに過少申告加算税額につき右所得税額の超過部分に相当する部分はいずれもこれを取消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一、原告

「被告が原告に対し昭和四三年一月三一日になした昭和四〇年度の所得税の更正決定並びに過少申告加算税の賦課決定(福岡国税局長が昭和四四年六月一二日になした裁決処分((福局協(審)一二六号))で取消された分を除く)および昭和四一年度の所得税の更正決定並びに過少申告加算税の賦課決定(福岡国税局長が昭和四四年六月一二日になした裁決処分((福局協(審)第一二七号))で取消された分を除く)を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

二、被告

「本件各請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決。

第二当事者の主張

一、原告の請求原因

1(一)  原告は肩書地において昭和五年より医薬品販売を業としている者であるが、昭和四一年三月一五日に原告の昭和四〇年の総所得金額は金四七万八、五〇〇円、昭和四二年三月一五日に原告の昭和四一年度の総所得金額は金四六万二、五〇〇円であつたとそれぞれ被告に対しその旨の確定申告をした。

(二)  被告は昭和四三年一月三一日付で原告の昭和四〇年度の事業所得金一三七万一、〇〇〇円、所得税額金二〇万一、五〇〇円、過少申告加算税額金九、〇〇〇円、昭和四一年度の事業所得額金一五〇万三、〇〇〇円、所得税額金二三万六、七〇〇円、過少申告加算税額金一万五、〇〇〇円とそれぞれ更正決定並びに過少申告加算税の賦課決定をした。

(三)  原告は被告の右各処分を不服として、被告に対し昭和四三年二月二八日右各更正決定並びに過少申告加算税の賦課決定の取消を求める異議の申立をしたが、同年五月二四日右各異議申立はいずれも棄却されたので、同年六月二四日福岡国税局長に対し右各処分の審査請求をしたところ、右福岡国税局長は昭和四四年六月一四日に原告の昭和四〇年度の事業所得額金一一四万八、六〇六円、所得税額金一四万五、五〇〇円、過少申告加算税額金六、二〇〇円(福局協(審)第一二六号)、昭和四一年度の事業所得額金一〇二万一、二〇九円、所得税額金一二万一、〇七〇円、過少申告加算税額金四、七〇〇円(福局協(審)第一二七号)とそれぞれ裁決し、その通知は昭和四四年六月一四日ごろ原告に到達した。

2. しかし、被告の右昭和四〇年度分、昭和四一年度分のうち、右福岡国税局長の各裁決により維持された各更正決定並びに過少申告加算税の賦課決定は原告の帳簿書類等を調査することなく、これを無視して直ちに推計の方法により原告の所得を認定した違法および原告の右各係争年度の所得を過大に認定した違法がある。

二  請求原因に対する被告の認否並びにその主張

1. 請求原因第一項の事実及び同第二項の事実中被告が原告の本件係争年度分の所得額を推計の方法により認定したとの部分は認めるが、その余の事実は否認する。

2.(一) 原告の各係争年度の所得額の算定は福岡国税局協議官小宮源蔵が本件にかかる審査請求事案を審理するに際し昭和四三年一一月一六日から昭和四四年二月五日に至るまでの間において原告が保管していた領収書、仕切書その他の原始記録と原告の申立および原処分相当係官の作成した反面調査資料並びに同協議官自身の反面調査の結果に基づくものである。

(二) 被告は原告が本件各係争年度の所得額算定の資料となる諸帳簿の備付がなかつたので(大学ノートに書かれた売掛帳だけがあつた)、原告の各係争年度の売上は左の方法で推計して各係争年度の所得額を算定するほかはなかつた。

3. 被告が算定した原告の各係争年度の収支明細は別紙第一表記載の通りである。

(一)  各係争年度の仕入金額は各仕入先調査により把握した金額に原告の申立を勘案して算定した。

(二)  各係争年度の売上金額は原告の申立に基づいて各メーカーの商品ごとに調査した差益率を右各仕入金額に適用して推計した。

(三)  各係争年度の一般経費、特別経費、雑収入金額(リベート収入)は原告が保管していた領収書の原始記録に基づいて算定した。

三、被告の主張に対する原告の認否並びにその主張

1. 別紙第一表中各係争年度の期首および期末たな卸金額、経費(一般経費、特別経費)、専従者控除額および昭和四〇年度の雑収入金額については認めその余の金額については否認する。

2. 仮りに別紙第一表中の各係争年度の仕入金額が被告主張の通りであつたとしても、原告の同業者間において商品を仕入金額で譲渡(いわゆる見返りなき譲渡または荷分け)することがあり、原告は同業者に昭和四〇年には一五五万三、八六七円、昭和四一年には二〇六万九、一二五円相当の商品をいわゆる見返りなき譲渡をなしたので、右各係争年度の売上金額の算定の基礎となる仕入金額からいわゆる見返りなき譲渡分を控除すべきである。

第三証拠

一、原告は甲第一ないし第六号証、同第七号証の一、二、同第八ないし第一五号証、同第一六号証の一、二、同第一七ないし第二九号証を提出し、証人中山真輝、同花田欣治の各証言および原告本人尋問の結果を援用し、乙各号証の成立を認める、と述べた。

二、被告は乙第一号証の一ないし三三、同第二号証の一ないし三五、同第三号証を提出し、証人小宮源蔵の証言を援用し、甲各号証の成立はいずれも不知、と述べた。

理由

一  原告が肩書地において昭和五年より医薬品の販売を営んでいる者であり、昭和四一年三月一五日にその昭和四〇年度の総所得金額を金四七万八、五〇〇円として、昭和四二年三月一五日に、その昭和四一年度の総所得金額を金四六万二、五〇〇円としてそれぞれ被告に対し確定申告したところ、被告は昭和四三年一月三一日付で原告の昭和四〇年度の総所得金額一三七万一、〇〇〇円、所得税額二〇万一、五〇〇円、過少申告加算税額九、〇〇〇円、昭和四一年度の総所得金額一五〇万三、〇〇〇円、所得税額二三万六、七〇〇円、過少申告加算税額一万五〇〇円とそれぞれ更正決定並びに過少申告加算税の賦課決定したこと。原告は右各処分を不服として被告に対し昭和四三年二月二八日右各更正決定並びに過少申告加算税の賦課決定の取消を求める異議申立をしたが同年五月二四日右各異議申立はいずれも棄却されたので同年六月二四日福岡国税局長に対しいずれも審査請求をしたこと。同局長は昭和四四年六月一二日原告の昭和四〇年度の総所得額一一四万八、六〇六円、所得税額一四万五、五〇〇円、過少申告加算税六、二〇〇円、昭和四一年度の総所得額一〇二万一、二〇九円、所得税額一二万一、〇七〇円、過少申告加算税額四、七〇〇円とそれぞれ裁決し、その通知は同月一四日ごろ原告に到達したことは当事者間に争いがない。

二  原告は被告が原告の帳簿書類等を調査することなく直ちに推計の方法により原告の所得額を算定した違法があると主張するので判断するに、証人小宮源蔵の証言によると、昭和四三年一一月一五日ごろ当時福岡国税局協議団本部協議官であつた同人は原告の本件にかかる審査請求事案の審理に着手し原告の申立の形式審理の後、同月一九日、二〇日の両日原告方へ臨戸調査に赴き原告の本件係争年度の所得額算定に必要な帳簿および証憑書類の提出を求めたところ、原告は本件各係争年度分の領収書、請求書、メモ等約三〇〇枚位の証憑書類を右協議官に提出したが、帳簿類は記帳していないと述べてこれを提出しなかつたため、同協議官は同年一二月中旬ごろに三日間仕入先の調査いわゆる反面調査を実施したが、右証憑書類並びに税務署職員および同協議官自身の反面調査の結果をあわせても原告の本件係争年度の売上金額を算定することが不可能であつたことが認められ右認定に反する原告本人尋問の結果はこれを採用したがたく他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

結局原告は本件各係争年度の所得額算定の資料となる金銭出納帳、売上帳等の諸帳簿を備付けていないうえ、原始記録の保存も完全にしていなかつたのであるから被告が原告提出の証憑書類並びに税務署職員および同協議官の反面調査を合わせてもなおこれらの資料のみによつて原告の各係争年度分の売上金額の実額及び総所得額を正確に把握することは不可能であつたというべく、被告が原告の各係争年度分の売上金額を算定するについて後記推計の方法によつたことは、あながち違法ということはできず原告の前記主張はこれを採用するに由ない。

三  そこで次に原告の所得額について判断する。

1. 昭和四〇年度分

(一)  期首および期末たな卸金額(各七〇万円)

期首および期末たな卸金額がいずれも七〇万円であつたことについては当事者間に争いがない。

(二)  仕入金額五八九万六、七六三円

成立に争いのない乙第一号証の二ないし一一、一三および小宮源蔵の証言によると仕入金額が五八九万六、七六三円であつたことが認められ右認定を左右する証拠はない。

(なお仕入金額の明細および右書証との対照は別紙第二表記載のとおりである。)

(三)  原価五八九万六、七六三円

(一)の期首たな卸金額七〇万円に(二)の仕入金額五八九万六、七六三円を加えこれから(一)の期末たな卸金額七〇万円を差引くと原価が五八九万六、七六三円であることは計算上明らかである。

(四)  売上金額(七一〇万三、二二四円)

成立に争いのない乙第一号証の一九ないし二一および小宮源蔵の証言によると、同証人は各メーカーごとに差益率が一定しているとの原告の申立に基づいて調査したところ差益率は別紙第三表の差益率(B)欄の記載のとおりであつたことが認められ、右各差益率に基づいて各商品ごとの総合差益率を計算すると別紙第三表の総合差益率欄記載のとおり化粧品が〇、一七三、雑品が〇、〇九九、薬品が〇、一八九と認めるのが相当であるから右各商品ごとの総合差益率と前記(二)で認定した各商品ごとの仕入金額合計額を<省略>の算式で計算して各商品ごとの売上金額を算出すると別紙第四表の売上金額(C)欄記載のとおり化粧品が五〇七万二、九二七円、雑品が六〇万九、七八八円、薬品が一四二万五〇九円、合計七一〇万三、二二四円となることは計算上明らかである。そして右になされた推計の合理性を左右する証拠はない。(なお、乙第一号証の一九中、化粧品欄のカネボーの項の差益率〇、一六六と各品目の総仕入額に対する割合六〇、一%の積の点について〇、一〇一とした違算があることは計算上明らかである。)

(五)  差益金額(一二〇万六、四六一円)

右(四)の売上金額七一〇万三、二二四円から右(三)の原価五八九万六、七六三円を差引と一二〇万六、四六一円となることは計算上明らかである。

(六)  雑収入金額(リベート収入金額)五〇万五、〇八四円

雑収入金額が五〇万五、〇八四円であることについては当事者間に争いがない。

(七)  経費(一般経費、特別経費)四五万六、五八一円

一般経費、特別経費の合計額が四五万六、五八一円であることについては当事者間に争いがない。

(八)  事業所得金額(一二五万四、九六四円)

右(五)の差益金額一二〇万六、四六一円に右(六)の雑収入金額五〇万五、〇八四円を加算しこれから右(七)の経費四五万六、五八一円を差引くと一二五万四、九六四円となることは計算上明らかである。

(九)  専従者控除額一一万二、五〇〇円

専従者控除額が一一万二、五〇〇円であることについては当事者間に争いがない。

(一〇)  総所得金額(一一四万二、四六四円)

右(八)の事業所得金額一二五万四、九六四円から右(九)の専従者控除額一一万二、五〇〇円を差引くと一一四万二、四六四円であることは計算上明らかである。

2. 昭和四一年度分

(一)  期首および期末たな卸金額(七〇万円)

期首および期末たな卸金額がいずれも七〇万円であつたことについては当事者間に争いがない。

(二)  仕入金額(六四八万四、三六一円)

成立に争いのない乙第二号証の二ないし一三、および小宮源蔵の証言によると仕入金額が六四八万四、三六一円であつたことが認められ右認定を左右する証拠はない。(なお仕入金額の明細および右証書との対照は別紙第五表記載のとおりである。

(三)  原価(六四八万四、三六一円)

右(一)の期首たな卸金額七〇万円に右(二)の仕入金額六四八万四、三六一円を加えこれから右(一)の期末たな卸金額七〇万円を差引くと原価が六四八万四、三六一円であることは計算上明らかである。

(四)  売上金額(七六六万九、一五八円)

成立に争いのない乙第二号証の一七ないし二三および小宮源蔵の証言によると同証人は前記1(四)と同様原告の申立に基づいて調査したところ別紙第六表の差益率(A)欄記載の通りであつたことが認められ、右各差益率に基づいて各商品ごとの総合差益率を計算すると別紙第六表の総合差益率欄記載のとおり化粧品が〇、一六三、雑品が〇、〇九二、薬品が〇、一六六と認めるのが相当であるから、前記1(四)と同様の算式で売上金額を計算すると別紙第七表の売上金額欄記載のとおり化粧品が三八八万二、五四〇円、雑品が一〇三万五、六〇九円、薬品が二七五万一、〇〇九円合計七六六万九、一五八円となることは明らかである。右になされた推計の合理性を左右する証拠はない。

(五)  差益金額(一一八万四、七九七円)

右(四)の売上金額七六六万九、一五八円から右(三)の原価六四八万四、三六一円を差引くと一一八万四、七九七円となることは計算上明らかである。

(六)  雑収入金額(リベート収入金額)四〇万三、四八九円

成立に争いのない乙第二号証の五、三二および小宮源蔵の証言によると原告はカネボーから二四万五、四三三円、マツクスフアクターから九万一、八九四円、川口屋から六万六、一六二円合計四〇万三、四八九円のリベート収入があつたことが認められ右認定を覆すに足りる証拠はない。

(七)  経費(一般経費、特別経費)四二万四、五七七円

一般経費、特別経費の合計額が四二万四、五七七円であることについては当事者間に争いがない。

(八)  事業所得金額(一一六万三、七〇九円)

右(五)の差益金額一一八万四、七九七円に右(六)の雑収入金額四〇万三、四八九円を加算し、これから右(七)の経費四二万四、五七七円を差引くと一一六万三、七〇九円となることは計算上明らかである。

(九)  専従者控除額(一四万二、五〇〇円)

専従者控除額が一四万二、五〇〇円であることは当事者に争いがない。

(一〇)  総所得金額(一〇二万一、二〇九円)

右(八)の事業所得金額一一六万三、七〇九円から右(九)の専従者控除額一四万二、五〇〇円を差引く一〇二万一、二〇九円であることは計算上明らかである。

3. ところで原告は原告の同業者間においては仕入金額で商品を譲渡すること(いわゆる見返りなき譲渡または荷分け以下単に分譲という)があり、昭和四〇年には一五五万三、八六七円、昭和四一年には二〇六万九、一二五円の分譲があり右分譲分を各係争年度の売上金額算定の仕入金額から控除すべきであると主張するので判断するに成立に争いのない乙第一号証の八、一三、乙第二号証の一三、乙第三号証および小宮源蔵の証言によると次の事実が認められる。

(一)  当時福岡国税局協議官であつた小宮源蔵が本件にかかる審査請求の審理をしていた際、原告から昭和四〇年には八幡祗園町二二番地所在の川崎某へ一四万二、七三〇円分の、久留米市日吉町所在の杉本某へ一一八万三、一九七円分の、若松某へ二三万四〇〇円分の商品および富田薬品から仕入れた金鳥蚊取線香四七ケースを西公園薬品、箱崎飛鳥町所在の林田商店に各二〇ケース、西公園裏の山口某へ七ケースの、昭和四一年には久留米市日吉町二丁目二八三番地所在の寺内商店へ七三万八、四五〇円分の、同市所在の坂本良一へ三三万七、五〇〇円分の、小倉市所在の坂本良治へ二〇万七、三七五円分の分譲先不明分が一〇二万一、〇〇〇円分の商品の各分譲がなされた旨の申出てがあつたこと。

(二)  同協議官は原告の右申立に審づいて分譲先の調査いわゆる反面調査を始めたところ、金鳥蚊取線香の分譲先は実在し、分譲の事実は認められたけれども、その日時、数量等については不明であつたので、さらに一店舗における年間の販売可能数量について調査したところ、その限度は約一五ケースであることが認められたので、原告の仕入れた金鳥蚊取線香四五ケースのうち一五ケースは原告が販売し他は分譲したものとして算定したこと、他方、久留米市日吉町所在の杉山某、同市同町二丁目二三八番地所在の寺内商店、八幡市祗園町二二番地所在の川崎某についてはそれぞれ所轄税務署に赴き電話帳および地図(一戸一戸名前の記入されている)を調べたがその所在が判明せず、更に市役区所の市民税の担当者に右の者の所在を問い合わせたがいずれも判明しなかつたので、同協議官は原告に対し分譲先について反面調査の必要があるので右申立た分譲先の住所氏名を具体的に明らかにするよう求めたが原告は右申立以上には明らかにしなかつたので結局反面調査の実施ができなかつたこと。

(三)  福岡国税局長の本件にかかる審査請求の各裁決処分を原告に通知した後、原告は被告に対して先に申立てた分譲先の若松某は北九州市若松区宮丸一番地所在の中山薬局である旨申立てたこと、しかるに原告が右中山薬局に昭和四〇年五月一〇日、同年一一月二日の二回に亘り分譲したと述べている甲第一、二号証記載の武田薬品工業株式会社の薬品はすべて同会社が同年一一月二五日から新たに発売を始めた新製品であつて原告が分譲したと主張する日時にはいまだ発売されていなかつたこと。

そこで、原告の右主張に沿う甲第一号証ないし第六号証、甲第七号証の一、二、甲第八号証ないし第一五号証、甲第一六号証の一、二、甲第一七号証ないし第二五号証並びに証人中山真輝、同花田欣治の各証言および原告本人尋問の結果について検討する。

原告本人尋問の結果により原告が作成したものと認められる甲第一、二号証の記載および証人中山真輝の証言は前記認定した(三)の事実に照らして信用できない。

甲第三号証ないし第六号証、甲第二二号証ないし第二五号証は単なるメモ用紙に、甲第七号証の一、二、甲第八号証ないし第一五号証、甲第一六号証の一、二、甲第一七号証ないし第二一号証は請求書用紙に本件各係争年度分の分譲商品、数量、単価、金額を記載しているところ、右書証中、証人花田欣治の証言により同人が作成したものと認められる甲第三号証ないし第六号証、甲第八号証ないし第一五号証、甲第一六号証の一、二、甲第一七号証、甲第二二号証について証人花田欣治は本件係争年度当時、ルリガン商事の従業員であつた同人が原告から分譲を受けた商品の商品名、数量、単価、金額(小売価格割引価格)を原告方にあつたメモ用紙ないし請求書用紙に記載して原告に差出したものである旨証言するところ、同人の作成に係る右書証中、甲第四号証(金額)、甲第五号証(商品名)、甲第七号証の一、二(商品名、数量単価、金額)、甲第九号証(金額)、甲第一五号証(数量、金額)、甲第一六号証の一、二(単価、金額)にはそれぞれ訂正した個所があるものの右各訂正個所には右作成者の訂正印等がなく分譲を受けたルリガン商事から原告へ差出す書類としてはその作成方法がきわめて社撰であり、他方原告本人尋問の結果によりいずれも原告が作成したものと認められる甲第一八号証には「アリナミン外、四五万円」、甲第一九号証には「アリナミンA、外二七万六、五〇〇円」、甲第二〇号証には「カネボー化粧品外、三六万五、〇〇〇円」、甲第二一号証には「カネボー外薬品、三一万九、五〇〇円」、甲第二三号証には「其外、一五万二、〇〇〇円」、甲第二四号証には「外合計、一万五、〇〇〇円」、甲第二五号証には「其外一五万円」とそれぞれ記載された欄があり、分譲商品の商品名、数量、単価、金額を具体的に記載せずその作成方法がきわめて社撰である。さらに、原告は分譲先の宛名を杉山(甲第三号証、甲第七号証の一、二、甲第八号証ないし第一五号証、甲第一六号証の一、二、甲第一七号証、甲第二二号証)あるいは寺内商店(甲第五号証、甲第二〇号証、甲第二一号証)と仮空名義を用いたのは原告がメーカーと締結している再販売価格維持契約の不履行をメーカー側に知られるのを警戒したためである旨供述するが、原告の右契約違反の発覚を警戒するには分譲先を仮空名義にしてもその効がなくその必要がないものである。そうだとすると、右甲第三号証ないし第六号証、甲第七号証の一、二、甲第八号証ないし第一五号証、甲第一六号証の一、二、甲第一七号ないし第二五号証はその記載が正当なものであることは認めることができず、証人花田欣治の証言および原告本人尋問の結果は前記認定した(一)(二)(三)の見返りなき譲渡の反面調査の経過等に照しあわせてにわかに措信できず、他に原告の右主張を認めるに足りる証拠はない。

四  そうすると右認定のとおり原告の昭和四〇年度の総所得金額が一一四万二、四六四円、昭和四一年度の総所得金額が一〇二万一、二〇九円であるので、原告の本訴請求中被告が昭和四三年一月三一日付でなした原告の昭和四〇年度の所得税の更正決定並びに過少申告加算税の賦課決定(福岡国税局長が昭和四四年六月一二日になした裁決処分((福局協(審)第一二六号))で取消された分を除く)のうち、総所得金額一一四万二、四六四円を超える部分および所得税額につき総所得税額を一一四万二、四六四円として算定した税額を越える部分並びに過少申告加算税額につき右所得税額の超過部分に相当する部分は違法というべきであり、右の限度で原告の請求は理由があるからこれを取消し、原告のその余の請求は失当としてこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条但書を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松田富士也 裁判官 塚田武司 裁判官 仲宗根一郎)

別紙第一表

<省略>

別紙第二表

昭和四〇年分仕入金額

<省略>

別紙第三表

差益率 (昭和四〇年度分)

<省略>

<省略>

別紙第四表

昭和四〇年度分の売上金額

<省略>

別紙第五表

昭和四一年分仕入金額

<省略>

別紙第六表

差益率(昭和四一年度分)

<省略>

<省略>

別紙第七表

昭和四一年度分の売上金額

<省略>

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